5月14日(火)、二度目の昼の部、これまで中村座に何度も来ていて初の桜席!今までのサラリーマン時代は週末しか芝居見物できず、普通のチケット入手ルートでは週末の桜席のチケット確保が難しかったのと、どうせ観るならいい席でという想いのほうが強かったので、桜席で観る機会がなかった。
まともな文章で表現できないくらい、すごいっ!エキサイティング!楽しくってしかたない!先週とは違うエンターテイメントを体感した。
少し早く芝居小屋に着いたので、開場と同時に入場のほぼ一番乗り。すると一番太鼓とは違うのだろうけど、リズミカルな太鼓音色が。
あれ、いい香りがすると思ったら、裏方さんがすでにセットされた舞台の上手、下手の両側にお香を焚いていた。最初の演目「十種香」の準備のひとつなんだろうな。八重垣姫と濡衣が左右で手を合わせているシーンなのだから。
開演すると、次々と定式幕の外側の通常の席からでは決してわからなかった芝居づくりの工夫を知ることとなった。
まず、黒子さんの重要な役割。武田勝頼役の扇雀さんがしばらく中央でじっとしている後ろで、息を殺してなるべく目立たないようにと丸~くなっている。当たり前だけれど台詞が進みサポートするタイミングにだけさっと動く。黒子さんでよく見る働きは、役者に腰かけを後ろから入れること。あれも簡単にやっているようで、いろんな気配りをしていた。腰かけの準備ができると同時に役者さんの背中に手を当てそっと合図をしていた。
十種香では背景になっているふすまの右に衝立があった。実はそこが黒子さんの隠れ場所と通路になっていた。ふすまに小さな穴出入り口がつくってあり、その前に衝立を置き、黒子さんがそこで待機しているのだ。脱いだ着物を取りに出て、また衝立の後ろに戻って裏側に入っていくというしくみ。
次の演目の弥生の花浅草祭では、常磐津の方たちが先に準備に入っていて、染五郎さんも準備万端で、常磐津の方々と談笑。幕明け前の柝を打つ人も和やかに周りの人と会話を交わしながら、準備の様子もうかがいながら、いい音を鳴らし、奥に下がっていった。勘九郎が飛び込んできて、すぐに幕開け。
今回一番の桜からの見どころは、この踊りの最後の見せ場の石橋の始まる前。先週はハプニングで振りかぶせをするはず浅葱幕がどかっと落ちてしまい、急きょ定式幕が引かれての大薩摩。定式幕の向こうの桜席以外の観客は三味線を楽しみ時折、拍手が起こっている。その間、私たち桜席の目の前で繰り広げられたのは勘九郎と染五郎の獅子への変身プロセスだ。浅葱幕がかかった瞬間に裏方の人がふたりを取り囲み、化粧道具が用意された台がふたりの前へ。ふたりはすぐに衣装を脱ぎ棄て、化粧をし、周りで準備している次の衣装をつけていく。その様子で一番印象的で、心が締め付けられるな気持ちになったのは、衣装を脱ぎ棄てて、下着一枚になった勘九郎が一番先にした支度。膝のサポーターをつけたこと。ここまででもかなり飛んだり跳ねたりで十分膝を酷使していて、実は心配だった。でも衣装の都合で膝のプロテクトはできなかったのだ、たぶん。やっと石橋の衣装では膝が隠れるので分厚いサポーターが付けられるのだ。染五郎は終始何もプロテクトするものはつけていない。ちゃっちゃか化粧を済ませて衣装をつけていた。一方、勘九郎は化粧に時間をかけていた。一度終わったかと思いきや、衣装をつけてからももう一度鏡を受け取ってさらに仕上げをしていた。ふたりとも獅子のかつらをつけて準備が整うと、セリの位置に立ち、下に降りていった。舞台が整い、田中傳左衛門たち鳴り物の方たちが勢揃い、幕が引き落とされた。
何分の出来事だったのだろう。ほんの数分の幕の内側がこれだけドラマティックだとは、ただただ皆の気迫、チームワーク、スピード感に感動した。
次の演目の準備から目を話せないので、幕間にトイレに立つこともためらってしまうほど。
め組の喧嘩は、出演者が大勢。め組の鳶、お相撲さんたち、お座敷の芸者さんたちなど、いわゆる三階さんと言われる脇を固める役者さんたち。この方たちが先にスタンバイ。小道具さんがセットした座布団やとっくりの位置を直したりもして幕を開くのを待っている。中には、幕の直前に小さく手を合わせている方が。きっと毎日のことでもお芝居の成功を祈っているのだと私には感じた。
立ちまわり場面は正面から見るのとは全く違う。クライマックスの屋根の上への駆け上りやそこからの瓦投げだったりが間近なので、迫力満点。
この日のハプニングは立ちまわりでめ組の鳶さんのちょんまげがはずれてしまって、格闘しているうちにどんどんざんばらになってしまったこと。舞台脇で他の役者さんたちがじっと見守っている。よく殺しの場面で髪をわざとはずしてバラバラにすることがあるけれど、これは偶然。まといを拾うのと一緒に落ちたまげを拾って引っ込んでいった。お疲れ様でした。
橋之助さん、勘三郎さんは幕が閉まると桜席の観客に目配りをしてくれるので、桜席エリアだけで拍手が鳴る。ちょっとうれしい。
芝居そのものを純粋に楽しむには見づらい席だし、台詞も聞こえづらい。でも、ふだんでは絶対に知りえない舞台裏の役者さん以外の大勢の努力を見ることができる。中村座ならではの演出のひとつ。
別の演目のときにはまた別のドラマがありそうだ。今月で中村座は終わってしまうけど、また戻ってきたときは桜席をもっとチャレンジしたい。